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暮らしのレポート

2021.03.24

10年目の味わいが美しいドアや壁を極力省いた開放的な平屋

札幌市南区・Kさん
玄関土間から見た屋内全景。柱や梁の現し、片流れ屋根の形状を生かした勾配天井など、木の温もりが存分に感じられる空間になっている

札幌市南区、藻岩山の麓に広がる住宅地。小さな川沿いの道を上った先に、竣工10年目を迎えたKさん宅が建っています。木々に抱かれた広い敷地は見晴らし良好で、野鳥のさえずりと川のせせらぎがBGM。こんなに素晴らしいロケーションに建てるべきはどんな家なのか。Kさんご夫妻は、自ら図面や模型を作成しながらプランを検討したそう。「最初は2階建ても考えましたが、土地の広さを生かせる平屋に決めました」。

そのうえで三五工務店の設計担当者に伝えた要望のひとつが「新築に見えない家」でした。内外観ともにピカピカの素材で包み込むのではなく、木材やコンクリートをむき出しにするデザインを採用。10年目の現在、各部に味わいが生まれ始めています。

このコンセプトの延長線上で、構造材を棚として生かすというアイデアも。L字型の広い玄関土間の壁2面を埋め尽くす収納は圧巻です。「これは最高ですね。外断熱にして、棚板をはめる溝を柱に入れてあるんです。棚板は用途で奥行きを変え、付けたり外したりもできます。工事は大変だったようですが、いいものをつくってもらいました」。

バッグや靴、食器などが見せる収納として収められており、また屋内全体が一体的な空間になっていることも相まって、まるでアトリエやショップと見紛うような雰囲気に。「意識したわけではないのですが、ドアや壁などを省いたら広々とした家になりました。自由度が高いので、これからも自分たちが使いたいように変わっていくと思います」。木材の経年変化とともに、空間自体も暮らしに合わせて変幻自在に味わいを増していくことでしょう。

Report by Replan
玄関とLDKの仕切り壁やバスタブなど、ご夫妻が少しでもいらないと思ったものは省かれた。室内扉もトイレだけとなり、開放的な空間を生み出している
最奥部にあるプライベートルーム。玄関土間と同様、デスクまわりに構造材を生かして収納を設けた。窓の外には、あと2棟ほどの住宅を建てられそうな敷地が広がり、畑として活用している
漆喰の塗り壁で囲まれたベッドルーム。プライベートルームとシームレスにつながっている
関から建物最奥部まで、一直線の動線上にLDK、水まわり、プライベートルームと寝室が並び、屋内全体を見通すことができる。一体感のあるゾーン分けは平屋ならでは
「朝はリビングの窓際に座って、野鳥やリスを見ていることが多いですね」と奥さん。リビングのソファは奥さんが現在マイペースで製作中
玄関土間で鹿肉をさばくKさん。作業台は自作した。「土間にはずっとバイクを入れていたんですよ。そのために広くしたんです。でも狩りに行くようになってから、バイクはガレージへと、使い方が変わりました。ぜひまた10年後に来てください。そのときはどうなっているかな。鹿の角だらけになっていたりして(笑)」
広い土間と天井まで伸びる構造現しの造作収納が出迎える玄関スペースに仕切りなどはなく、そのままLDKとつながる
内壁をなくすことで、構造材を生かした巨大な棚が出現。住宅では構造材と内壁の間に断熱材を入れる「内断熱」が一般的だが、外壁側に断熱材を入れる「外断熱」によって実現している。上は竣工当時の収納棚。今の写真と比べると、経年変化で味わい深い色になってきたのがよくわかる
薄い緑色の片流れ屋根と道南スギを張った外壁で構成されているシンプルな外観。外壁の色がいい具合にくすんできている。手前の木の根元には鹿の角の表札が。背後の斜面もKさんの土地で「ベリー類を植え始めました」と奥さん