ここは本当に中央区? と疑ってしまうような、木々に囲まれた家。
立地や環境も含め、この家には施主であるSさんたちのライフスタイルが全面に表れています。
もともと東京で働いていたSさんご夫婦は、30代半ばに転勤で札幌へ来ると、
すっかりこの街が気に入ったそうです。
やがて「経済的に満ち足りていても、東京で得られるもので幸せにはならない」と、
ここに根を張って新たな生活を始めることを決心しました。
そのための一歩が、会社の事務所兼ご家族の住居を建てること。
大学時代に森林について学んでいたほどの森好きのご夫婦が、木が生い茂り笹薮が広がる土地を見つけ、
「木をたくさん使った家を建てたい」と思うようになるのは自然な流れでした。

不可能にさえ思えることを実現したい
ご夫婦は日本の林業の窮状を知っているので、“国産材で家を建てること”については諦めていました。
しかし三五工務店では地元・北海道産の木材で家を造っており、
木の種類まで選べることにご夫婦は驚いたそうです。
家を建てると決まったものの、土地の整備も問題でした。
ご夫婦が選んだのは、中央区にありながら15年も売れなかったという土地。
20mもの高低差がある400坪弱の傾斜地に、うっそうと木が茂っています。
できるだけ木を残す前提で、図面上で現場の状況を把握しつつ、
どの場所・どの向きに家を建てるかを丁寧に決めていきました。
この家のコンセプトは「街と森の間」。
中央区の街中から一歩足を踏み入れると、そこは非日常の空間。
大事なのは、“家に来た人のファーストビュー”でした。
家へ入って右に振り向いた途端、正面にある大きな窓から、
街の風景とはまったく異なる大自然が目に飛び込んでくる。
「森は少し不安な存在。
落ち着かない感じをあえて出して、家へ来た人にちょっとショックを与えたい」と
いうご要望に沿った演出。
玄関の横に短い壁を設けて“ため”をつくることで、森が見えた瞬間をより印象的に。
窓の外へと視線を誘うように、天井の木材は通路の進行方向へ。
奥へ行くほどさらなる広がりを感じるよう、窓へつながる通路はゆるやかな下りの階段に。
「三五さんの設計担当の方が私たちのコンセプトを深く理解してくれて、良い空間が出来上がりました」


気持ちをひとつにした家づくり
「三五さんは、打ち合わせをする相手が営業職ではなく設計担当の方なので、
伝言ゲームにならずに済むし、提案が早くて具体的。
一緒に家づくりをしている感覚で、設計担当の人もこの家に住みたいんじゃないかな? と
思ってしまうほどでした」
設計担当を信頼し、「思い切りやっちゃって」と任せてくれたSさんご夫婦。
「雨の日でもBBQができるように、1階にはテラスを造ることにしました。
このテラスから室内に入るドアを開けると、外で使ったものをすぐに洗える流し台、
反対側のドアを開けると物置という間取りで、とても便利。
キャンプ目線で作ってくれたのだと思います」
設計担当は、Sさんたちがアウトドア好きなことを知って自分でも初めてのキャンプを体験。
それは、ご夫婦の感覚を理解するためです。
その上での提案についてSさんたちは「私たちの好みまで分かってくれていると感じていました。
例えば家具は、前の家のものをそのまま使用しています。
設計担当の方はこの家具を事前に見たことがなかったのに、今の家ともうまく調和しているんです」

「何か要望を伝えると、うまく形にしてくれて助かりました」
セミナールームの隣にある1.5階のようなゲストルームも、Sさんたちのアイディアを形にした特別な空間。
「この部屋は、上階のバルコニーとの兼ね合いで一部の天井を下げざるを得ず、
そのことを逆手にとった設計にできないだろうかと考えていました」というSさんの発想から、
天井が下がっている窓際については、床を上げてさらに上下を狭くすることになりました。
その結果として生まれたのが “森に面した洞窟”のような空間です。
小上がりの奥の窓越しに緑豊かな景色が広がっており、気持ちが安らぎます。

2階にある平家という発想
2階はご家族5人が暮らす居住空間。
この階で生活が完結する、いわば“2階にある平家”です。
家族が大半の時間を過ごすリビングの“顔”は、特注の木枠で形作られた大きな窓とその先に広がる緑の風景。
「景色がきれいに見える方向にうまく家を建ててもらえました。
キツツキやリスやキツネなどの頻繁に現れる動物たちや、移り変わる景色を見るのが楽しくて、
夕食の皿洗いもあえて朝にするようにしています」
大きな窓を開けるとそこは、家の端から端まで続く長いバルコニー。
窓を開放すると、ここもリビングの一部に。
「夏は家族でバルコニーで食事をすることもあるし、パーティをできるくらい広いですね」
冬にはバルコニーに置いたクーラーボックスを冷蔵庫がわりにするといった、意外な使い方もあるようです。
リビングの木の天井は斜めになっていて、そのまま同じ角度でバルコニーの軒天へ。
リビングと外とをつなげるこの演出を、Sさんたちは住み始めてから知ったとのこと。
「設計担当の方が考えてくれていたいろいろな工夫を生活しながら少しずつ発見しています」
「2階のお風呂は窓から木々が見えるので、昼間に入ると露天風呂気分で最高です。
外から覗かれないように、目隠しの短い壁がバルコニーの絶妙な位置にあることも、
実際に風呂に入ってみて初めて気づきました。
そのほかにも、寝室の窓から朝日がきれいに差し込むように調整されていることなど、
設計時のこまやかな配慮を感じます」
「設計以外のことでも、可能な限り早く木材をおさえて、
ウッドショックの影響を最小限にしてくれたりと、様々な面で気遣ってくれたのがうれしかったです」



事務所兼住居の枠を超える
「都会から距離をおきたい人はたくさんいます。
私たちは北海道へ来てから時間のゆとりができて、親子で一緒にご飯を食べられるようになったし、
コミュニケーションも増えました。
そのおかげか、子どもの表情が前よりさらに明るくなっていると感じます」
そのような“自然とつながる生活”を応援できるように、Sさんは自分の家の活用を考えています。
「都会でアウトドアを始められるように、
家の裏手の空き地を焚き火やキャンプができる場所として貸すのも良いかもしれません」
そのほか、フリースペースをセミナーやワークショップ、
キッチンをお料理教室やYouTuberなどのキッチンスタジオとして活用することも、
設計段階から想定されていました。
この家は、Sさんの事業だけではなく、地域を巻き込んだ様々な活動の中心地に。
「この家のことをもっとたくさんの人に知ってほしいし、もっと活用したいと考えています」
