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家語

家語 ORDER MADE HOUSE STORY
敷地と要望に応答して実現した 道産材が生きる大人の基地

厳選されたアイテムが調和したリビングで家づくりの思い出を語る山口(写真左)とWさん(写真右)。「ソファに寝転んで吹き抜けの方を見上げると、窓に月が見えるんですよ」とWさん

Replan 北海道  vol.146 掲載

設計室 山口 圭以 / お施主様 Wさん

家語 ORDER MADE HOUSE STORY

飲食店を経営するWさんが、 オフィスを兼ねた別宅の新築を検討したのは住宅密集地。
難しい敷地条件の中で、いかに自分の希望をカタチにできるか。
検討の末に家づくりを託したのは、知人の紹介で出会った三五工務店です。
設計士と直接打ち合わせをすることで、
理想の具現化を可能にする同社が敷地に対して導いた最適解とは。
設計を担当した山口圭以さんとWさんが家づくりを振り返ります。

住宅が密集する狭小地で
採光を確保する綿密な窓計画

南側に大きく開くリビングの吹き抜けが開放感をもたらす。道南スギや札幌軟石、タモの無垢床といった自然素材を、黒に塗装した木部やWさん愛用のオレンジのスピーカーが引き締める。リビングのテレビ背面にはWさんが好む札幌軟石を採用。AV機器を載せる棚は、現場で機材のサイズを測り造作した


—— Wさん宅が立つのは住宅密集地・狭小地ですが、閉塞感のない室内空間を見て、改めて三五工務店の設計力を感じました。

—— Wさん
この場所には以前、古いアパートが立っていました。隣家同士の距離も近く、土地も36坪という狭さ。山口さんも初めて見たときはその狭さに驚いたと思います。
—— 山口
道路も間口も狭く、住宅も密集していて、若干開けているのが公園や屋外駐車場のある南側のみ。加えて、北側斜線制限が適用されている地域でもありました。私自身、これまで郊外のヴィラなどの敷地にゆとりのある建物を設計する機会が多かったので、狭小地の計画は新鮮で、制約が多く難しさもありますが、それらを超えていくという楽しさもありました。ただ、Wさんは最初から要望が明確だったので、大まかなプランはスムーズでした。
—— Wさん
ガレージやプライベートジム、お店用の菓子づくりができるキッチンや、打ち合わせをしたり友人を招くことのできるリビング、オフィスと、必要な要素は決まっていましたよね。
—— 山口
敷地の間口が狭いので、建てられるボリュームはある程度決まっていました。この建物は敷地面積36坪に対して、建築面積は21坪です。建物全体に必要な要素を組み込んで考えると3階建てになるのはあきらかで、1階にガレージとジム、2階にLDK、3階に寝室&オフィスと、目的別のゾーニングは比較的早い段階で固まりました。
—— Wさん
山口さんはプランニング時から何度も足を運んでいただいて、窓の計画なども練ってくださいましたよね。完成後、改めて空を切り取る窓や採光に感心しています。
——  山口
住宅密集地の中での採光はかなり検討しましたね。周囲は2階建ての建物が多かったので、3階建てにすることで抜けが取れます。そこで開けている南側を大きな吹き抜けを設けた二層とし、オフィスにもリビングにも光を取り込めるようにしました。敷地的に細長い建物にならざるを得ないのですが、南側だけの採光だとLDKの奥まで光は届きませんので、北側斜線制限を避けながらやわらかな光を取り込むために2階部分がせり出るようにし、視線を避けつつも北側の採光も確保できるよう窓を計画しました。

道南スギで仕上げた2階部分がせり出すファサードが印象的。狭小地ながらも2階のLDKにボリュームを持たせることを可能にした

 

札幌軟石の素材感を
最大限に生かした玄関アプローチ

—— Wさん
山口さんには、北海道の素材を使用したいという話もしましたよね。
—— 山口
Wさんが前職で携わっていた建物も道産材を使っていたという話を聞いていたので、素材に関しては、「木・鉄・石」という3種の天然素材を中心とする三五工務店のスタイルを生かしながら、より積極的に道産材を採用したいと考えていました。その中でもWさんは、札幌軟石がかなりお好きで。
—— Wさん
かなり好きです(笑)。以前携わっていた建物にも札幌軟石を使ってほしいと設計士さんに依頼しました。
—— 山口
札幌軟石は昔から使われていた建材ですが、最近では住宅や商業施設の内装によく見かけるようになりました。三五工務店でもテレビボードなどに使用することがありますが、ほとんどはシンプルでモダンなダイヤ切りで仕上げています。Wさん宅ではテレビボードだけではなく、アプローチの外壁にも札幌軟石を採用していますが、最近ではあまり見ることのない「こぶ出し」仕上げとしています。こぶ出しは、見方によってはゴツゴツとした仕上げが古く見えてしまう方もいらっしゃいますが、凹凸があるのでライン照明を当てるとダイヤ切り仕上げよりも石の質感が出てきます。
—— Wさん
私の札幌軟石が好きだという気持ちを、最大限に尊重していただきました。山口さんとは工場にも見学に行きましたよね。
——  山口
行きましたね! 札幌軟石の生産業者である辻石材さんの工場と採掘している山に二人で足を運びました。
—— Wさん
「工場を見てみたい」と言ったら、本当に山口さんが話をまとめてきてくれて。大きな丸鋸で石を切っている様子を見学して、大人の社会見学的な楽しさがありました。山を見に行ったときは、廃材としている札幌軟石も見ることができましたが、錆の入った軟石がとても格好よかったです。
——  山口
Wさんは自然素材ならではの経年変化を楽しめる方。廃材となる札幌軟石も、置き石にして庭のアクセントにできたらと思い、良い石が出たら一報をいただけるようにお願いしました。
—— Wさん
楽しみに待っているところです(笑)。

LDKの天井には外壁に使っている道南スギを採用。道路に面した北側には倉庫のあるバルコニーを設置し、外からの視線を遮りながら、北側からのやわらかな光を取り込んでいる

札幌軟石のこぶ出し仕上げの壁とルーバーで挟むようにした奥行きのある細長いアプローチは、京都の町家をほうふつとさせる

 

感性を共有し
無意識を意識化した建築

—— 山口
アプローチのライン照明など、私が面白いと感じた試みもいろいろと提案させていただいたのですが、Wさんもそれを柔軟に受け入れてくださって。Wさんとだからこそ叶えられた建物だと思っています。
—— Wさん
打ち合わせは具体的なプランニングの話よりも、好きなお店や、素材などの雑談が中心でした。山口さんとは年齢こそ違いますが、そうした会話の中で感性の共有ができていたと思うので、ラリーがとても楽しくて。だからこそ、良い意味で山口さんには好き勝手にしてほしかったんです。

—— 感性の共有ができている設計士から出力されるものに委ねたのですね。

—— 山口
お施主様が日常生活を送る上で無意識下に大切にしていることや趣味、やりたいことなど、雑談を楽しみながら感性を共有することで、世界観がつくりやすくなります。建築は、日々の生活に深く関わるもの。お施主様の無意識を意識してデザインすることが、設計士の仕事だと思っています。この家が完成した際に、Wさんのご友人が「Wさんが好きな店に雰囲気が似ているね」とおっしゃっていたという話を聞いたときはとても嬉しかったです。打ち合わせではそのお店についてお聞きしていなかったので、Wさんの深層心理にたどり着けた感覚がありました。
—— Wさん
宮崎県のシェラトンホテル内にあるバーが、宙に浮いているような建築物で。非常に心惹かれたのですが、この家も北側から見ると道南スギで仕上げた2階部分がせり出していて、そのバーと似た印象があるんです。提案を受けたときは嬉しく思いました。


——
会話の中に出てくる漠然とした言葉や考えをくみ取って、まさにWさんの無意識を可視化されたのですね。現在計画中の新店舗も山口さんに依頼されたとか。

—— Wさん
新築ではなくリノベーションなので、この家とはまた異なる制約があり、この条件下でどう計画していくか、というのをやり取りするのがとても面白いです。
—— 山口
難しい条件ほど楽しいですよね。Wさんは遊び心がある方なので、建築だけだと固くなってしまう部分を、Wさん好みのインテリアや小物などで緩和してくれます。現在計画中の店舗も人を楽しませることが巧みなWさんと一緒に進めているので、きっといいプロジェクトになると思っています。

Report by Replan