Sango Story
35STORY

三五工務店の想い、取り組み、いごこちのいい暮らしへのヒントを発信しています。
2017.06.01
家語(いえがたり)STORY3
produced by Replan 家語(いえがたり)STORY2 村井 啓人さん Italian Restaurant Sagra

家語 STORY3
Itarian Restaurant Sagra  村井 啓人さん

三五工務店がめざすのは、家づくりの先にある暮らしづくり。
お客様それぞれの理想のライフスタイルを実現する空間をご提供できるよう、
建築業界のみならず、暮らしに関わる多様な業界の方々と語り合い、さまざまな着想を得ています。
その語りの中身をぜひ聞いてみてください。
家づくりやライフスタイルのヒントがきっと見つかるはずです。

3回目のゲストは、
イタリアンレストラン Sagraの村井啓人さん。
食材の作り手と食べ手を結びつけながら、あるべき北海道の姿を描こうとする創造者です。
村井さんとゆかりの深い岩見沢・10Rワイナリーでお話を聞きました。

素材や土地の背景を知り、それらが持続できるように考え、動きたいですね Sagra 村井 啓人/個々の暮らしも北海道も豊かになる家づくりを追い求めています 三五工務店 田中 裕基
田中
この対談では衣食住の各シーンで活躍されている方をゲストにお招きして、お仕事に対する考えをうかがっています。今回のテーマは「食」ということで村井さん、よろしくお願いします。
村井
よろしくお願いします。
田中
じつはぼくも建築の世界に入る前は、都内でイタリアンの仕事に携わっていたのですが、北海道などの各地から素材を集めて料理をするシェフが多い印象でした。村井さんは素材について、どのように考えていらっしゃいますか。
村井
10年ほど前、イタリアに1年間いたんですけど、みんな極端なぐらい自分の土地のものしか知らないんです。たとえば札幌で考えた場合、江別のこともさっぱり知らないみたいな。もしくは、自分の住んでいる区のことしか知らないぐらいの。それで、ぼくがイタリア人にイタリア料理を教えたりして(笑)。自分の土地に対する愛情がすごいんですよね。その土地にある素材を活かした料理をするばかりで、あの料理をつくりたいから、別の土地から素材を持ってくるという発想がないんです。それは、今の日本人が忘れている感覚かなと思いました。
田中
うちの会社でも、なるべく北海道の素材を使うようにしています。国内外からの輸送にかかるコストやエネルギーを減らせるし、北海道のものを使うことで北海道の豊かさにもつながると思っているからです。道産材は質も高いですし、昔は地場のものを使うのが当たり前だったわけですから。
村井
そこにあるものを使うといえば、畑に野菜を取りに行くと、ついでに畑のまわりに生えている草なども摘んできて使ったりします。食べられない草のほうが少ないので。自分から欲しいものを望むより、そこにあるものを活かすことのほうが自然だと思うんですよね。たとえばブルーチーズだって、誰かが意図的にカビを入れようとしたわけじゃなく、入っちゃったわけで。そういうのが後付けで食文化になっていくんです。ブルーチーズで思い出しましたが、住空間も気密性が高すぎると、入ってくるべき微生物を遮断してしまって、そこで暮らす人の環境耐性が弱くなってしまうという話もありますね。
田中
いきすぎた断熱や気密には、村井さんのおっしゃるような側面もあるかもしれません。断熱や気密だけを追い求めるのは、豊かな暮らしとはかけ離れることだと思っています。うちの住宅では、断熱などの性能・デザイン・コスト・エネルギー消費の観点からバランスの取れたものを目指しています。また、気密を保ちつつも意図的に開口部をつくることもあります。
村井
建築物と人間の体って同じだと思うんですよ。空気を出し入れ するのもそうですし、屋内・腸内で微生物と共生するという あたりも。そう考えると、建築と料理はとても似ているというか、 どちらも長い目で見たときにどのように心身に作用していくのか を考えなければならない仕事だと思います。
田中
そうですね。性能を追求して、あまりに暖かすぎる家をつくるというよりは、コストをかけるバランスを考慮しながら、もっと人間らしく、豊かな暮らしができるような家づくりを模索していきたいものです。ところで村井さんは音楽好きとお聞きしていますが、料理というのは、音楽に喩えると指揮をするような感覚なんでしょうか。
村井
んー、というよりは編曲に近いのかもしれない。曲と詞という素材をどうやってプレゼンテーションするのか。素材をそのまま出したほうがいい場合も、音を足したり、リズムを変えたりしたほうがいい場合もある、というようなことだと思います。
田中
なるほど。村井さんのお料理は本当においしくて、ついつい飲みすぎちゃいます(笑)。道産ワインもリストにあって、今回お邪魔してる10R(トアール)ワイナリーとも強い絆を感じられますが、こちらとはどのようなきっかけで?
村井
ここと同じ地区にあるナカザワヴィンヤードのワインを飲む機会があって衝撃を受けました。2008年だったと思います。こんな素晴らしいワインを北海道のブドウでつくることができるのかと。それを醸造しているのが、ここのブルース(・ガットラヴ=ワイン醸造家)なんです。当時、ブルースは栃木県で中澤さんのブドウを醸造していたんですが、その後ここにワイナリーを構えることになって。ブルースのワイン、そして精神が好きですね。ある日、若い醸造家に「おいしいワインをつくるだけの人間にはならないでほしい」と言っているのを聞いたんです。ぼくの立場に置き換えれば、レシピどおりに料理をつくるだけじゃなく、食材や土地の背景を知り、それらが持続していけるように考え、動くことが大切だと感じています。
田中
そのための次のステージとして、余市を選ばれたんですね。来年、オーベルジュをオープン予定だそうで。
村井
はい、この岩見沢の景色もすごく好きなんですが、海が近い余市を選びました。余市は野菜の生産者も多く、アスパラやトマト、ワインなど世界で戦える素材があります。そして美しい景色もある。そういう素材一つひとつを使って北海道を表現したいと思ったんです。
田中
村井さんが出会ったイタリアの人々のように、地元の食材のみで?
村井
極力余市、極力後志、極力北海道ですね。身の回りから使っていって、そこにあるものを伝え広めていくことで、来てもらえるきっかけになったりすればいいのかなと。輸送コストもかからず、理にかなっている。さっき田中くんも言っていたけど、それが自然だと思うので。
田中
衣食住のなかでは、いつも「衣」と「食」が先を走っているような気がして、「住」も追いつきたいという思いがあるんですが、お話を聞きながら、自分たちがやっていることは決して外れていないと再確認できました。ありがとうございます。それにしても、札幌を離れて余市まで人を呼ぶって、すごいことですよね。
村井
いや、来てもらえないと困っちゃうんで…来てよ(笑)