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家語

家語(いえがたり)STORY6 Special Talk Session

家語(いえがたり)STORY6 Special Talk Session

家語 Special Talk Session

住宅雑誌リプラン 編集長 三木 奎吾
株式会社 三五工務店 代表取締役社長 田中 裕基

今と未来を見つめなおし、
いごこちのいい暮らし方を導き出す

「理想の住まい」という言葉から思い浮かぶ暮らしのシーンは、人それぞれでしょう。ご家族ごとに「いごこちのいい暮らし」のかたちがあり、必要とされる住まいも違います。また暮らし方は、時代の変化とともに多様化。多角的に暮らしと住まいを見つめ直す必要があります。

今回、30年以上にわたり、地域に根付いた住まい/暮らしの情報を発信している住宅雑誌リプランの編集長・三木奎吾さんと、三五工務店の代表・田中裕基が特別対談を行いました。三五工務店が考える暮らしや街、北海道のこと。そして、さまざまなライフスタイルと暮らし方に応えるための取り組みについてお伝えします。

こだわりは、Made in 北海道
原点を大切にしながらできることを次々と

——  三木
三五工務店といえば、「いごこちのいい暮らしをつくる幸夢店」というキャッチフレーズが印象的ですが、まずこの言葉に込めた思いからお聞かせください。
——  田中
地域に根ざした家づくりを行う工務店として、「そこに暮らす人の幸福と夢をかたちにするのが住宅である」という考えのもと、つけたものです。「暮らし」には、家づくりの先にあるお客様の暮らしまで見据えた提案をするという思いを込めています。
——  三木
木造住宅の主役ともいえる柱材や梁材などの構造材には、全棟で道産カラマツを。フローリングの無垢材には下川町のナラ・タモ・カバを使うなど、三五工務店は地産地消の家づくりにこだわっていますよね。
——  田中
はい、北海道の工務店としてただ住む場所をつくるのではなく、自分たちは何ができるのか。三五工務店ではそれを常に模索しています。地産地消の家づくりは地球にも優しく、地域の森や林業を持続可能なものにすることにもつながります。そして、木・鉄・石という時とともに味わいが増す素材で建物を構成することもデザインコンセプトの柱としています。ガルバリウム鋼板・レンガ・ゼオライトの塗り壁など、大半の材料は道内から高品質なものを入手。1棟1棟の家づくりが、少しでも北海道の元気につながることを願っていますし、一方で北海道の素材から生まれた家という誇りや安心感がお客様の「いごこちのいい暮らし」に通じると信じています。
——  三木
北海道に対する思いを突き詰めると、いろいろアイデアが出てきそうですね。
——  田中
実は今、山を購入しようと思っています。自分たちで山を維持・管理して原木を育てる。そうして出来た木材を使って建てるところまで、一気通貫で行いたいと考えています。というのも山の持ち主の高齢化が進んでいて、維持できなくなりつつあるんですよね。そういう状況になった山を購入し、原材料の供給体制をつくるという川上の部分まで、自分たちが踏み込んでいかなければならないという使命感をもってチャレンジするつもりです。
——  三木
ユーザー側からすると、自分の家を建てる材料となる原木を実際に山で見て、「これを切って使います」と聞けば、一気にストーリーが入ってきて、地域で建てる意味をとても強く感じられるでしょうね。これは今まであまり聞いたことがない取り組みで、とても楽しみです。
——  田中
それに加え、2050カーボンニュートラルの実現に向けてさまざまな分野でCO2削減の取り組みが行われていますが、森林はCO2を吸収し、地球温暖化の防止に貢献する大切な存在です。三五工務店ではそんな森や自然とともに生きていける住まい・暮らしづくりを目指しています。
——  三木
モノづくりの枠を超え、原点を見つめる、ということですか。
——  田中
はい、木造住宅をつくる企業にとって森との関わりはとても大切なこと。環境・生態系の回復支援活動、森づくり活動やレクリエーションなどの事業への協賛や寄付をはじめ、森の道の整備や掃除など、さまざまな方法で私たちにできる活動を行っています。そして羊蹄山の水を使ったオリジナルのペットボトル商品を販売しているのですが、1本の販売価格から5円分を森の保全活動に寄付しています。
——  三木
水の販売まで? それは新鮮な取り組みですね。
——  田中
三五工務店は、暮らしにまつわる良質なものを多様な形で提供したいと考えています。水はその1つで、今後は再生可能エネルギー発電によるCO2排出量ゼロのクリーンな電気を「35グリーンデンキ」として供給する予定です。これからは循環型社会とつながるライフスタイルも、豊かな暮らしの大きな要素になると感じています。
——  三木
なるほど。暮らしづくりを通じて北海道をもっと元気にしていくという強い思いが感じられます。

家づくりを通して、森と暮らす人をつなぐ架け橋となるのが三五工務店の仕事。北海道の工務店として、地元の材料を使った高性能・高品質な家づくりを通して、地域を豊かにすることを常に意識している

「注文住宅クオリティーの賃貸」
という新しい選択肢

——  三木
新築やリノベーションといった工務店のスタンダードな家づくりに加え、今年新たに注文住宅クオリティーの賃貸住宅「TOU(棟)」を発表されました。これも新たな取り組みの1つですね?
——  田中
そうです。今はカーシェアや音楽・映画のサブスクリプションサービスなど、「所有しない」ことが1つのライフスタイルになっています。であれば「所有せずに高品質な住宅で暮らす」という選択肢があってもいいのではないかと発想しました。これまで三五工務店が培ってきた注文住宅のノウハウを生かし、戸建てとテラスハウスの2タイプを用意しています。交通アクセスやショッピングなどを考慮し、利便性の高いエリアを選びました。
——  三木
マーケティング調査も行って?
——  田中
いいえ、まったく(笑)。ただ周囲から「戸建てに住むのは子どもが巣立つ前までだけでいいんだよね」という声が聞こえたり、転勤の多い大手企業の方からは「札幌ではマンションに住むしかないですよね」という話をうかがうことがありました。そういう人たちのニーズに合う受け皿が、札幌にはどうやら存在しないんです。では自分たちがつくってみようと決断しました。多様化していく暮らし方に応えることも、これからの工務店の役割だと思っていますので。

テラスハウス「TOU-8KEN」。カラマツの現しの天井やアイアンの手すり、木毛セメント板など、素材の質感を十分に楽しめる2階リビングの住まい

——  三木
私の毎朝の散歩コースにある立派なマンションの前を通ると、大きな黒塗りの車が、上場企業の支店長さんのような雰囲気の人を乗せて走り出すわけです。「TOU(棟)」は、そういう人たちにも選ばれる可能性が十分にありますね。札幌にも戸建て賃貸はあるでしょうが、建物のグレードはあまり高くないはず。そこに高品質な建物で参入するというのは、とてもおもしろい着眼点ですね。
——  田中
大丈夫だと思いつつ、実は「こんなの誰が借りるんだ?」という自問もあり、当初はドキドキでしたが、結果的に初回募集の5棟はすべて入居が決まりました。道産木材をふんだんに使ったハイクラスな空間に、住みたい期間だけ住むというコンセプトが受け入れられてホッとしているところです。メンテナンス費用や固定資産税、さらには相続など、家を持つことで生じるお金の不安から解放されることもポイントだと思います。今後は、オリジナル家具付き賃貸の展開も考えているところです。
——  三木
戸建て住宅は買うものという認識の人が多く、しばらくはその考え方が主流でありつづけるとは思いますが、住宅業界に新たな風を吹かせてユーザーの選択肢を広げるのは素晴らしいことだと思います。

戸建て「TOU-kita35」。小さな敷地に建つ住宅でありながらも、駐車スペースを含めた3階建てという贅沢なつくり。窓の配置と間取りの工夫でいつでも明るく開放感のある室内空間を実現している

時とともに育つ
北海道らしい街並みを

——  三木
今回お話をうかがっているこの場所がTOU(棟)のテラスハウス。北海道の高品質な素材が使われていて、他の賃貸住宅にはない特別感を味わえるデザインだと思います。そしてこのテラスハウス周辺にも、三五工務店らしい住まいがずらりと並んでいますね。
——  田中
はい、ここの土地は、弊社の名誉会長・初代の時代に作業員としてお手伝いしてくださっていた方が私たちに託してくれた土地で、私たちは35TOWNと名付けました。テラスハウスや35STANDARD HOUSE(企画型住宅)のモデルハウス、オリジナルの注文住宅が建てられています。
——  三木
三五工務店が提案する暮らしのかたちが集約された場所なんですね。
——  田中
1軒1軒の住まいももちろんですが、三五工務店では街並みをつくることも大切に考えています。この35TOWNはそんな私たちの想いを具現化する場所でもあります。
——  三木
どのような街並みをお考えですか。
——  田中
例えば、外壁の板張りの部分は色をそろえ、お庭を設け必ず1本以上木を植えるなど、自然を思わせながら美しい街並みになるように意識しています。「時とともに育つ」というコンセプトは素材に限られた話ではありません。暮らす人々とともに街並みも育つ。とても素敵だと思いませんか。
——  三木
つくり手としてとても楽しみなことですね。
——  田中
また、庭を設けることは外とのつながりを生み出します。都市部の住まいでありながらも、外を自然と楽しめる住まいとすることで、北海道らしい街並みがつくられていくのではないかと考えています。
——  三木
一人ひとりにとっての「いごこちのいい暮らしづくり」が、北海道らしい街並みにつながるのですね。
——  田中
そう言っていただいてありがとうございます。今日お話しした「TOU(棟)」をはじめとしたさまざまな取り組みのほかにも、新しいことにどんどん挑戦していきたいと考えています。地域が培ってきたものを次世代へつなぎ、住宅業界や北海道全体をよりよくできればと思いますね。
——  三木
全国的にも工務店さんの次の展開が見えづらいなか、北海道からユニークな取り組みが発信されることを嬉しく思います。ところで田中社長にとっての「いごこちのいい暮らし」とは?
——  田中
んー、仕事が趣味のようなものですからね(笑)。マウンテンバイクに乗るのが好きなんですが、森を走りながら、木々を見て、仕事のアイデアを思い浮かべてしまったり…困ったものです(笑)

新たな暮らしのステージを提案する「TOU(棟)」をはじめ、三五工務店が建てた住まいが並ぶ35TOWN

Report by Replan