Sango Story
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三五工務店の想い、取り組み、いごこちのいい暮らしへのヒントを発信しています。
2019.11.22
【第2回 築10年】 今と未来のライフスタイルを 共有した先に生まれる「設計の耐久性」

住み継ぐ家

「いい家」とは? その答えは住まい手の数だけありますが、
「長く快適に暮らせる家」という部分は共通しているはず。
三五工務店でも創業以来、ご家族の暮らしに寄り添い、
ずっと住み継いでいただける家づくりを大切にしてきました。
では実際のところ、年月を積み重ねた家はどのように深化しているのか。
弊社自身の勉強も兼ねて、築10年以上のお住まいを訪ねます。

「第2回 築10年」
今と未来のライフスタイルを
共有した先に生まれる「設計の耐久性」

札幌市北区・Tさん宅
探訪者:石塚 亜紀彦(設計室 室長)
コンパクトながら、ご家族のライフスタイルを見つめ、暮らしやすさを最大限に追求したお住まい。少子高齢化が進み、このような「ちょうどいい」家を提案することがいっそう大切な時代へ

今回はちょうど10年前、2009年に私自身が設計を担当させていただいたTさん宅をご紹介します。比較的コンパクトな面積の中で、求められたさまざまな要素を立体的に組み合わせ、2階にリビングを配置した二世帯4LDK+ロフトというお住まいになりました。

1階にはTさんのお母様が暮らすミニキッチン付きの洋室を用意。玄関から別動線に分けてプライバシーの確保に配慮しました。ゆとりのある玄関土間は、まだ小さかった息子さんとおばあちゃんが遊べる空間になることもイメージ。…と、久しぶりに訪れたお住まいで設計意図を振り返っていると、「1階の塗り壁は、家族で塗らせてもらったんですよね」と微笑むTさん。そうでした。現在は中学生になった息子さんにもその記憶があるそうで、人生におけるモニュメントのひとつとしてカタチに残ったのは素敵なことだと思います。決して上手な塗り壁ではないのですが、それがいいんです。

このように時が流れるとともに、暮らしの大きな分岐点も訪れます。数年前にお母様が亡くなられた後、1階の洋室はカイロプラクティックの資格を取得した奥さんのサロンになりました。「2階に家族がいても気にならない位置なので、『専用スペースとしてつくったの?』と言われることも多いですよ」と奥さん。ここまでピンポイントの想定はできませんでしたが、プランを練る際は10年、20年、さらにその先の暮らしについて、お客様とできる限り共有することを心がけています。家は品質も大事ですが、設計も大事。きちんと一緒に考えた分だけ、末長く使い勝手のよい家が生まれます。Tさんからも「10年住んでみて、こうすればよかったという場所が本当にないんです」と言っていただけました。

インテリアはヴィンテージ感のあるデザインにまとめています。もともとレトロなアイテムがお好きなご夫妻で、お手持ちの家具にサイズや雰囲気が合う空間づくりがテーマとなりました。木や石などの自然素材は、10年間のエージングを経て、いい風合いに。とはいえ、ワインでいえば、まだまだ若い状態でしょう。ご家族の暮らしも、これらの素材の熟成とともに、さらに味わい深く、豊かになっていくことを願っていますし、家という空間には、それを左右するほどの力があると思っています。だからこそ、これからもお客様のライフスタイルにしっかりと向き合っていきたい。そのことをあらためて感じる訪問となりました。Tさん、ありがとうございました。

玄関まわりの外壁は、トドマツの板張り。ナチュラルな風合いにエージングさせるために木材防護保持剤を使用している。「10年を経て、いい感じの色になってきましたね」とTさん
敷地の裏手には、奥さんが手入れをしている彩り豊かなガーデンが
レトロな雰囲気のベンチやはめ殺しの窓など、ご夫妻が集めてきたアイテムを活かす空間づくりが行われた。右奥にある洋室は現在、奥さんのカイロプラクティックサロンとして使われている
玄関ドアから写真奥に見えるボルダリング練習用のウォールまで続く土間。手前にある廊下から1階洋室へアクセスできる。土間を跨いで階段を上ると2階リビングへ
木の質感にこだわった階段は、10年を経て色が深くなり、味わいが増してきた。階段下には来客のコートを掛けたり、洗ったウエットスーツなどを干せるハンガー機能も。奥に見えるのはサーフィンやスノーボードなどの道具を大量に収納できるクローク。「隣の寝室をできるだけ狭くして、クロークを広げてもらいました。すごく便利ですよ」とTさん
2階に配置されたLDKは、木のぬくもりが感じられる明るい空間に。キッチン上には片流れ屋根を活かしたロフトがあり、収納力確保のほか、キッチンまわりをカフェ風に演出する効果も。「ロフトは子どもたちの遊び場にもなっていますね」と笑うのは奥さん
LDKには木目が美しいカバの無垢フローリングを使用。リビングの奥にはパソコンカウンター、さらに和室へとつながっている
木の表情が豊かな対面式のキッチン。「キッチンもかなり打ち合わせをして構成したので、10年間ほとんど何もいじらずに使っています」と奥さん
ダイニングの様子。奥にあるチェストはご夫妻がもともと所有されていたもので、この色に合わせて全体のカラーリングが設定された。南向きの窓は、太陽光をより多く採り入れられるように背が高くなっている
1階の壁の一部は、新築時にご家族で塗った。時が経っても、楽しかった思い出とともにずっと残りつづける場所
2階のキッチンから子ども部屋の上にかけてロフトが設けられている。写真は子ども部屋の上の様子
1階洋室に面した位置にある広々としたユーティリティ。洗面台の周囲には、奥さんがセレクトしたアンティーク調のタイルが張られている

|| 完成当時(10年前)の様子